出版社のホームページに「ムック」や「ムック本」と書かれていて、疑問に感じたことがある人も多いはず。雑誌との違いも合わせ、「ムック」とは何か?について解説していきます。書店業界における、専門的な知識にも少し触れています。
目次
そもそも「ムック」ってなに?
ムックは、ガチャピンとコンビを組んでいる雪男の子どもです。
というのは嘘です(笑)。
出版業会におけるムックは、「雑誌」と「書籍」の中間に当たる、本の形態のひとつです。ムック(Mook)という名称は(Magazine=マガジン)と(Book=ブック)の合いの子という意味を持っています。
雑誌は、ご存知の通り週刊誌や月刊誌など、一定の期間ごとに刊行される「定期刊行物」です。
対して書籍は、文庫本や単行本、新書など、基本的には単発で刊行される本のことを指します。もちろん、中にはシリーズ化する続きものや全集などもありますが、雑誌のように毎月25日に必ず発売される、という性質とは異なります。
書籍は、ハードカバー(表紙の紙が固いもの、上製本)やソフトカバー(表紙が柔らかいもの、並製本)といった装丁上の分け方を行う場合もあります。
見分け方
ムックは印刷上、雑誌に近い作りになっているため、ぱっと見は見分けがつきません。
それぞれ完璧な線引きはできないのですが、おもに以下のような違いがあります。
ムックは専門的な内容や別冊本が多い
雑誌は報道(ジャーナル)や、趣味(ファッション、ゲーム、手芸など)、経済誌、文芸誌といった幅広い種類があり、定期刊行物であることが一般的です。
ムックは、雑誌本誌の別冊(付録が付いたブランドブック)や、アウトドア、釣りといった趣味の楽しみ方をまとめたテーマ本が多いのが特徴です。雑誌に比べてさらに「絞り込んだ」テーマに特化した本が出版される傾向にあります。一例を挙げると「ライカのすべて」みたいな本ですね。
また、ページ数に関しては書籍より薄い傾向にあり、100ページから200ページ前後が一般的です。写真などのビジュアルを重視したものが多く、書籍よりも大判(A4~B5)のサイズが流通しています。
紙質
雑誌は大量に印刷して配本されること、最長で1カ月程度しか読まれないことを前提としているため、比較的紙が薄く、それほどいい紙を使っていない場合が多いです。
ムックは雑誌に比べると、より厚めで質のいい紙を使用する傾向にあります。
特に、表紙は雑誌に比べてやや厚めの紙を使います。書店に長期間置かれることを想定すると、ある程度耐久性の高い紙の厚さが必要だからです。
書店流通上の違い
雑誌とムックは、書店流通において大きな違いがあります。ムックは書籍と同じ扱いになるため、販売期間を定めずに書店に長く置くことが可能です。雑誌は月刊や季刊といった販売期間の縛りがあるため、一定期間を経過すると返品されます。
ムックも、書店側が返品したいという希望を出せばいつでも返品することができます。
これは日本独自の(かどうかわかりませんが、どうもそうらしいです)、委託販売制度という仕組みです。
見分け方は「コードの違い」
背表紙(表4)とも呼ばれる本の背面に、複数の数字が掲載されています。基本的には本の価格やバーコードと近い位置に印刷されていることが多いのですが、ムックにはISBNというアルファベットから始まる「ISBNコード」が付けられています。
ISBNコードは、書店などで本の流通を管理するためのもので、ひとつひとつ違った番号が付けられています。
対して、雑誌の背表紙には「雑誌コード」が印刷されています。
雑誌の名前を表す5ケタと、2ケタ(発行年月や通巻番号)をハイフンでつなげた番号が記載されており、ISBNよりケタ数が少ないのが特徴です。
出版社側のメリット
当たるかどうかわからない本を、単発&少部数で刊行できる
書店側のメリット
新しい本を仕入れリスクを抱えることなく置くことができ、返品も自由
双方のメリットがあることから、長く日本における出版流通を支えてきました。ただ最近はオンラインでの書籍販売が増えてきたこと、特にアマゾンジャパンが書店と独自取引の開始を発表したことなどの影響で、この仕組みにも大きな変化が起きようとしています。(今回はあくまでもムックについての解説ですので、このあたりの説明は省きます)
目当ての本を探すときにも使える
ムックにはISBNコードが記載されているというお話をしました。ちなみにAmazonやオンライン書店e-honなどで、このコードを入力することで、本の検索ができます。
出版業会の不思議なところは「書名(本の名前)」がいまひとつ明確でない場合が多いことです。中には、本屋さんに書名を伝えても、検索データになかった…という経験をされた人もいるはず。
そんな時は出版社のWEBサイトなどに記載されているISBNコードで調べてもらうのが一番正確です。予約の際にも利用することができるので便利です。
あとがき
今回は、出版業界の中の人しか知らない「ムック(ムック本)」についての解説でした。
余談ですが、新しい本をつくってプロの編集者に見せると、中身も見ずに背表紙のコードを見る、ということがあります。
何をしているかというと、「雑誌なのか、書籍なのか」「書店で売られている本なのか」を、コードを見て調べているんですね。
出版・編集業界あるあるの行動です。
僕の場合、中身を見ずに本をひっくり返すのは相手に失礼だと感じるので、まず先に中身を拝見するようにしています(笑)。
必ずしもこうした知識を覚えておく必要はないかもしれませんが、編集者と話をしているときに「今回の本はムックなんです」といきなり説明されて戸惑うときもあるので、なるべく押さえておくと便利な用語です。