「ライトニング」や「セカンド」「ライダースクラブ」などのカルチャー系雑誌を出版する老舗出版社、エイ出版社が経営破たんしたというニュースが流れました。出版不況の中をたくましく生き残ってきた出版社の破たんに驚きを感じるとともに、厳しい出版業界の今後について考えてみました。
エイ出版社とは?
エイ出版社(枻出版社)は、東京都世田谷区玉川台に本社ビルを構える(構えていた)出版社です。
おもに趣味系、いわゆるカルチャー系のムックを手がけている分野の出版社としては老舗で、業界の中では知る人ぞ知る(というか普通にメジャーな)出版社でした。
同社が民事再生法を申請したのは2021年の2月9日。
エイ出版社が発行していた、おもな媒体を列挙してみたいと思います。
ライトニング
セカンド
ライダースクラブ
ランドネ
PEAKS
湘南スタイル
田園都市生活
世田谷ライフマガジン
趣味の文具箱
CAMERA magazine
写ガール
本当に挙げればきりがないのですが、バイクからアウトドア、サーフィン、カメラまで非常に幅広いカルチャーを網羅していて、「湘南スタイル」や「世田谷ライフマガジン」など、いわゆる東京近郊のおしゃれライフスタイル誌が得意なことでも有名でした。
アウトドア系の「ランドネ」は「山ガール」という、山登り・アウトドア好き女子のジャンルを確立した媒体といえるのではないでしょうか。
僕自身も「CAMERA magazine」に作品を掲載していただいたことがあり、思い入れの深い出版社でした。
最寄り駅は東急・田園都市線の用賀駅で、環状8号線からほど近く、バイクやクルマの取材には便利なんだろうな?と足を運ぶたびに思っていました。
(環状8号線は交通量が多い幹線道路で、道沿いには多くのバイク店、クルマ店が並んでいます)
出版不況を生き抜いた中堅出版社
「エイ出版社が破綻した」というニュースだけを見ると、「本が売れない時代=出版不況」の影響と見る人も多いでしょう。
ただ、じつは同社は、インターネットメディアの台頭にもかかわらず、特定のコアな趣味ファン層に特化した雑誌づくりによって巧みに生き残ってきた「出版不況化の勝ち組企業のひとつ」でした。
その秘密は、雑誌(雑誌コードを取っていない刊行物=ムックも多く出版しているのですが、わかりやすいように今回は「雑誌」という呼び方でまとめます)を中心としたイベントなどの横展開&飲食店まで幅広く手がける、多角経営にありました。
つまり「本の売り上げだけに頼らなくても、利益を上げることができる」仕組みをつくっていた会社だったんですね。
わずか数年前まで、こうした経営手法はエイ出版社ならではの強みと考えられていました。
コロナウイルス禍の深刻な影響
コロナ禍においては、さまざまなビジネスで明暗がわかれました。
リアルショップから足が遠のき、オンラインストアでのEC販売が好調に。
本屋さんに足を運ぶことも少なくなり、電子書籍やネットで情報を仕入れるようになった...という方も多いのではないでしょうか。
本が売れない=書店での売上が減少
コロナ禍による広告費の削減=雑誌に広告が入らない
イベント=各種のイベントが全面的に中止・縮小
飲食店=緊急事態宣言による休業で業績が悪化
エイ出版社が得意としていたのは、誌面とリアルイベントを連動させた立体的な展開手法でした。
ですが、多角経営を行なっていたあらゆるジャンルでコロナ禍における悪影響が重なってしまったのは不運でした。
まとめ
エイ出版社の経営破たんには、まさか...と驚きました。
同時に、またカルチャー系の本づくりをする出版社がなくなってしまうことに今後日本が築き上げてきた文化がますます衰退していきそうで、不安も大きいです。
コロナウイルスはだれも予測できなかったことですが、多角経営=必ずしも有利にはならないということをあらためて感じた出来事でした。
僕が運営しているスタジオは幸いなことに、通販などオンライン系企業のクライアントさんが多いため、コロナ以降も致命的な影響は出ていません。
ですが、たまたまラッキーだっただけで、2021年初頭の現在も、まだまだ出張撮影については依頼がかなり減っている状況です。
イベント特化型(ウェディングやライブ専門フォトグラファーなど)の需要は、向こう1-2年は回復が難しいでしょう。
特化型も厳しいし、手を広げすぎるのも柔軟な運営ができなくなってしまう。コロナによって変わってしまった世界で生き残るためには、さまざまなことを考えていく必要がありそうです。